食の養生訓

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 適切な食事を摂ることが、漢方薬、鍼灸、推拿、気功といった中国医学の治療法を支える基盤となることは、私が祖母から叩き込まれた教えです。食は養生の大きな要素ですね。

 「医食同源」「薬食同源」は中国医学、中国養生法が掲げてきた大きな看板です。古来、名を成した医家も食をとても重んじました。

 唐代の医家で『千金要方』などを表した孫思邈は「薬王」と呼ばれたほどの人物ですが、「医者はすべからくまず病原を洞察し、その犯す所を知り、食をもってこれを治し、食療によって治癒しなければ、しかる後に薬を用いる」と述べています。

 中医学の古典『黄帝内経』には、「胃が不和であると安眠できない」の言葉もあります。
 「病従口入、病従口調」(病は口から入り、飲食を調えることによって病を治す)、「食療薬療、益寿延年」(食事と薬による療法を併せれば長寿をもたらす)とも古くから言われています。

 このブログでは、時季や病状に合わせた食材の紹介が多かったので、今日は食事の仕方等々について昔から言われてきた言葉をご紹介したいと思います。
 日本でも、おじいちゃん、おばあちゃんから、または母親から聞くことも少なくなってきたでしょうから。

○飲食不可過多、不可太速 
大食い、早食いはいけませんよということですね。よく噛んで食べなさいという注意は、さすがに今でもそこここで聞かれます。噛んで唾液が出るのを促せば、消化を助けるだけでなく、歯の保護にもつながります。

○素食少食、三五調配 
前半は肉や魚を避けて少食にすべきということですが、もちろん肉や魚にも優れた食材はあります。やはり過ぎてはいけないということですね。後半は間食の勧めではなく、1日3回の食事を例えば5回にして、1回当たりの食事の量を減らして脾胃の負担を減らすと良いということです。消化管に炎症などがある方には必須です。

○晩飯少喫口、享年直到九十九 
夕食を控えめに摂れば大変長生きできるということです。中国では夕食を「鬼の食事」と言うぐらいで、寝る前に食べ過ぎないことは胃腸を休めることにもメタボを防ぐことにも直結します。「少喫一口、舒担一宵。多喫一口、半夜不寧」(控えめに食べれば一晩穏やかでいられるが、食べ過ぎると夜間安らかに眠れない)の言葉もあります。

○五味淡薄、令人神爽気清少病。酸多傷脾、鹹多傷心、苦多傷肺、甘多傷腎、辛多傷肝 
味を淡白にすれば、人の精神をすがすがしく、気を清らかに、病を少なくするという意味です。後半は訳さないでも見ればおわかりですね。五味が濃すぎると五臓を傷つけるということです。

○当食勿嗔怒、怒上亦勿食、食則心成痞。当食勿悲愁、神志多乱、自傷其心 
食事はできれば家族で楽しくいただきたいですね。独りでコンビニ食をほおばっている子供たちの姿をテレビなどで見ると、私も胸が痛みます。上に挙げた句は、怒りや悲しみなどを抱いて食事をすると自らを傷つけることになるという意味です。

○切忌空心茶、飯後酒、黄昏飯 
空腹でお茶を飲んだり、食事の後に改めてお酒を飲んだり、夜遅く食事をしたりしてはいけない。

○飯後百歩走、能到九十九 
このごろは、「食べてすぐ横になると牛になるよ!」と叱り飛ばす親も少なくなってきたでしょうね。とくに夕食の後は消化を促すためにも少し散歩をするといいですね。
「飯後徐徐行走数十歩、以手摩面、摩脇、摩腹。仰面呵気四五口、能去飲食之毒」(散歩に加えて、マッサージや深い呼吸も勧めています)、「食止、行数百歩、大益人」のような言葉もあります。

 さて、日本で「養生訓」というと、江戸時代前期の学者、貝原益軒の同名の書が今にいたるもよく採り上げられるようですね。
 医学、歴史、地理など広範囲の学問を修めた益軒がこの書を世に問うたのは、84歳の時のことでした。口だけではなく、身をもって養生法を実践し、長生きしたということですね。

 私もはじめてざっと目を通してみました。第1、2巻の総論に続く第3、4巻は飲食に充てられています。やはり食養生を重んじたのでしょう。

 「病いは口より入る」「飲食は身を養なひ…しかれども飲食節に過れば、脾胃をそこなう」「胃の気とは元気の別名なり…病甚しくしても、胃の気ある人は生く。胃の気なきは死す」などとあるのは、まるで中国の医書を読んでいるような感じでした。もとより、益軒の生きた時代を考えれば、多くの知識は中国の文献より得たのでしょう。

 「多食と消化剤とを用いて、腹中を戦場にしてはならぬ」のように、現代人にも耳の痛いひと言もありますね。
 養生の要諦というのは、古今東西共通するものが多いと思います。

 日本の一般の方には中国の医書や養生書は縁遠いものでしょうが、時には日本の養生法の古典に少し親しんでみるのも、ご自身の心身を養うのに非常に益するのではないでしょうか。

楊秀峰

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