しばらくホームページを閲覧できない状態が続き、ご不便をおかけいたしました。
新型コロナウイルスが世界中に広がり、人々の活動が大きく制限され、日本でも気功や太極拳、ヨガの教室やスポーツクラブなどの多くが閉鎖、一時休業を余儀なくされています。
しかし、私の教室は消毒や換気に充分気をつけながら、体調管理、病気の予防やリハビリに役立つ多くの方法や知識をお伝えするため、まったく変わることなく活動を続けています。
教えることが好きですし、私を育てながら伝統医学を叩き込んでくれた祖母のおかげでお伝えできることはきりなくありますから。(笑)
日本では新規感染者が急減し、感染の第5波もようやく終息の見通しがつきそうです。
残念なことに、多くの専門家は冬場に入っての第6波到来を予測しています。少し息をつけるこの時期に、気分転換に楽しめることは楽しみながら、次の流行期に備えましょう。
さて、言うまでもなく、私が日々お教えしているものは、中医学、中医養生法を基盤にしています。一般の多くの方はより有効なワクチンや即効性のある治療薬の開発はまだかと期待を持ってニュースを見聞きし、古臭いイメージのある中医学は有効な対処法を示すことができるのだろうかと、「?」を頭の中に浮かべるかもしれません。
しかし、中医学はただ歴史の古さを誇っているわけではありません。言ってみれば温故知新をつねに繰り返し、有効な方法を探っています。
湯液(漢方薬)の分野を例にとりますと、漢方薬と言われてほとんどの方が一番目、二番目に思い浮かべるであろう葛根湯は、ウイルス感染による発熱に広く使われます。麻黄湯も同様です。
軽症、中等症、重症を問わず新型肺炎への対処に広く使われているのは、清肺排毒湯、そして、免疫反応の暴走といわれるサイトカインストームに対するのは、これもよく知られた方剤である補中益気湯、十全大補湯です。
免疫力が低下し、かぜを引きやすい状態になっている方には、非常にポピュラーな玉屏風散が予防的にも使われています。同様に予防効果を期待して使われる板藍根は、飴まで出回ってよく売れているそうです。
最近の「環球時報」(「人民日報」の姉妹紙で海外ニュースを中心に報じています)に、東京発の記事として日本の病院での漢方薬利用例が出ていました。
ひとつは新型肺炎の診断が確定して入院した78歳の男性の例で、入院3日目に麻黄湯、4日目から大青龍湯、6日目から竹筎温胆湯を服用、併せてロピナビル・リトナビル配合剤(もともとは抗HIV薬として開発されたもの)、肺機能の急激な低下に適応するステロイド剤を用いて好転したというもの。
もう1例は74歳の女性の例で、入院4日目から麻黄湯、6日目から越婢加朮湯と桂枝湯を用い、併せて前記のロピナビル・リトナビル配合剤を投与して2週間で検査結果が陽性から陰性に転じたというものでした。いずれも中医学と西洋医学の投薬を組み合わせた中西医結合の成功例です。
この記事にも登場する金沢大学附属病院漢方医学科(当時)の小川恵子医師は、ご自身の寄稿論文の冒頭の節で、「まだ抗生物質もワクチンもなかった時代、日本の伝統医学である漢方医学の主要な対象は感染症でした。…(エビデンスが確立していないなからも)漢方の現代医学とは異なった感染症へのアプローチは、今日でも役立ちます」と確言されています。
少々専門的なことを書きました理由は、中医学は昔からある病気や軽度の症状に対応するだけの「規格品」ではなく、新たな敵に現在進行形で挑んでいける資源を豊富に持つ宝物だということを知っていただきたかったからです。
中医学を学ぶ者が誰しも目を通すことになる「傷寒雑病論」という古典があります。後漢の時代の医家、張仲景が、当時、張一族の多くをも死に追いやった急性発熱性感染症である傷寒(現代の腸チフスであろうとされています)を良性の中風(一般の風邪)と比較し、病症の変化と治療の法則、治療法を述べたものです(「雑病論」の部分はその他の病についての記述)。
先に挙げた清肺排毒湯はこれに掲載されている方剤のひとつです。2000年の時を経てもなお有用とされているわけです。
100年前には世界で2500万人が亡くなったと言われるスペイン風邪が大流行しました。そして、今次の新型肺炎(近年のSARS、MERSの流行も含み)の蔓延をも経験した人類が、経験と知恵を結集して新たな「傷寒論」を著して後世に残せれば…そんなことも私は考えています。
新型肺炎の流行は、ロックダウンやテレワークなどによる人の活動低下を招き、心身にいろいろな悪影響を与えています。
次回は日々の生活に役立つもっと具体的な話、日頃教室でお教えしているような、さまざまな不調への対処法を述べたいと思います。
2021年9月
楊秀峰