ご承知のように、気功は長い歴史と豊富な内容を持っています。中国人の自然観、人体観、人間の心身に関する知見の積み重ね等々を凝縮したものと言っていいでしょう。
現在、気功には小さなものまで入れると数千の流派があると思いますが、その中でも幾多の分派を生み、いわば「古典」とされる存在が、「四大功法」として中国が普及に努めている易筋経、五禽戯、六字訣、八段錦です。
拳法で世に知られるようになった少林寺の僧侶の鍛錬のため、南北朝時代に現れて禅宗の祖となった達磨大師が洗髄経と共に伝えたという伝説があるのが易筋経です。「筋」骨を強靭に「易(か)」える方法(「経」)の意味で、易(やさ)しいわけではありません。
五禽戯は後漢の伝説的名医である華陀(かだ)が5種の動物(虎・鹿・熊・猿・鳥〔鶴〕)の動きを観察して身体訓練法を編んだもので、華陀からこれを伝えられた弟子は齢90を過ぎても耳も目も衰えず、歯も丈夫だったという記述が残っています。
現在伝わる五禽戯の様々なバリエーションの中には、ただ動物の動きをまねてなかばショーのように見せるものもあり、四大功法の中で最も原型を想像しにくいのはこの五禽戯ではないかと思います。
六字訣は、6種の発声によって臓腑の機能を高めようというもので、これもすでに南北朝時代の医書・養生書に見られます。
6種の音はもちろん中国語の音ですから、日本の気功指導者の中には、六字訣の代わりに日本語の母音といくつかの子音を用いたり、仏教の声明をとり入れている方もいらっしゃるようですね。
八段錦は、8節の動作から成る功法で、宋代にまとめられたとされています。日本でいちばん普及している功法ではないでしょうか。武八段・文八段、站式八段錦・坐式八段錦などに分かれ、それらからさらに次々と分派が発生していきました。
ちなみに「宮廷21式呼吸法」は五禽戯から派生したものと祖母から聞いたことがあります。もちろん、以前にも書きましたように、五禽戯だけではなくその他の気功の精華も吸収したと私は考えています。
また、現在中国政府が普及させている四大功法はいずれも動作を伴うものですが、これが唯一絶対のやり方というわけではありません。
例えば、私が以前帯津三敬病院で気功を指導していた頃には、ベッドからなかなか降りられない患者さんには、六字訣の発声だけやっていただきましたし、四大功法ではありませんが、一指禅功の扳指(ばんし)法だけを指気功としてお教えしたこともありました(指は経絡の起点・終点です)。
心身によい効果を及ぼすためには、ただ動作を覚えるだけでなく、求めるところをよく理解し、感覚を開き、功法を活用できるようになる必要があるでしょう。
私の教室でも四大功法はとり入れています。ご興味がある方は体験にいらしてください。
楊秀峰